「ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている。」
本の帯に渇きと切望じみた言葉に目が止まり普段、購入しない小説本を読みすすめました。
演者が浮き出てくる。情景に置かれ傍観者のように「男」佐久間の葛藤とフツフツとした怒りが感じ取れた。
第166回芥川賞受賞作品
自衛隊から転身した異色の作家・砂川文次の「ブラックボックス」
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主人公の佐久間亮介
作品の冒頭では東京都内をメッセンジャーとして疾走しながら、非正規雇用者としての生活している日々に悶々としながら本意でなく迷いながら就業している場面から描かれ、アクシデントを社会の仕組みのせいにしたり、妬み嫉妬入り混じった佐久間が描かれてている。
過去の節目に激情の怒りに任せ、他者と調和が取れず不器用に生きてきた佐久間は自分自身で抑えきれない怒りが沸点に達する事も実は冷静かつ客観的に眺められる特性を持っているが、それを抑えきれない負のループに陥る事も承知の上で日常・非日常を過ごしていく。
格差の仕組みがコロナ禍と共に描かれている。
非正規雇用者の社会保障と微弱さがコロナ禍が拍車をかけ佐久間の周りにいる同じ境遇の労働者と同棲している女性の不安が表現され、その境遇から脱出しようと希望と諦める場面と、いわゆる上流階層にいるエリートとして佐久間が妬み眺めている場面に現代の我が国の問題提起している様子が描かれている。
人に眠る凶暴性と保身に対しての他害
佐久間は一見、自分自身を客観的に見える成人男性であるが内面は自分に語りかけ、その凶暴性を隠し生きている。
またその一方で同棲している女性が希望としない妊娠をした時、佐久間自身は「なんとか安定した生活を得ないと。」と彼なりに行動するが、結実しない結果が早急に見えてくると諦めじみた姿勢を見せるが内面では、かなりの葛藤で悩み苦しんでいるが、同棲の彼女も似たような境遇からくる不安から佐久間に保身する。互いに支え合いたい気持ちがあるものの
当然ながら互いの内面を知るよしもなく激しくすれ違う。そこに人が基本的に備わっている愛情よりも他者よりも自分自身への理解を他者から得られないときの保身からくる凶暴性が垣間見えると感じた。
ブラックボックスを読んで現代への「愛情・正義」への問題提起
コロナ禍で誰しも明日の見えない日常が、願わない非日常に一変するかも知れない不安を過ごしているのであると思う。
不安と不安がぶつかり合う時、または自分の正義と他者の正義がぶつかり合う時に人間はヒトとしての理性が一旦、外れてしまう特性を誰しも持ち合わせていると思う。
それは個人対個人から国対国とスケールを変えても同様と私は思う。「ブラックボックス」を読んで現代に身を置いている私たちは他者への束縛・偏見は勿論であるが、愛情のかけ方に対しても今一度考えながら他者と接することが必要ではないかと思う。また反面、正解が見えないから「愛情」や「正義」だからこそ、ぶつかり合うのが人間の特性として認識しながらも
包み込むような「博愛」を持つことが重要ではないかと思った。そして政治へのメッセージも…。
最後に「ブラックボックス」を読んで
第166回の芥川賞である「ブラックボックス」を読んで夢想したことはこれから迎える新しい時代に希望と不安が入れ混じっている中、多くの人は不安をかき消すように日々を生きていと思う。私自身もカナリの不安症です(笑)
著者の砂川文次先生が世に出した作品を通してリアルに現代にもがいて生きている佐久間という主人公を通して私は自分を投影した次第であるが、読んで教訓をたてたという訳でなく、人として備わっている喜怒哀楽を自分というシーンの四季に置き換えて冷静に見つめながら、つまるとことろ「逞しく生きよう。」と誓いました。
砂川文次先生の次回作も人生の四季を通して味わい深い作品がまた世に出てくることを期待して今回の投稿を締めさせていと思います。